施設の安全性を左右する擁壁(ようへき)について解説。役割と法整備を整理
建物の安全性を考えるとき、多くの方はまず建物そのものを思い浮かべるのではないでしょうか。
しかし、設計の仕事をしていると、建物の安全は敷地の条件によって大きく左右されることを実感します。
近年報じられる擁壁の崩壊事故も、そのことを改めて考えさせられる出来事です。
擁壁は斜面や高低差のある土地を支える構造物で、
住宅だけでなく、工場や事業所、店舗、公共施設など、さまざまな施設の敷地に設けられています。
日常の施設管理では、建物や設備の維持管理に意識が向けられることが多いものですが、
敷地の構造物もまた施設の安全性に関わる重要な要素です。
本記事では、施設管理の視点から、擁壁について改めて考えてみたいと思います。
都市に多く存在する既存擁壁とその構造とは?

私たちの身近にある擁壁の構造について整理してみたいと思います。
都市に多く存在する擁壁について
日本の都市では、丘陵地や傾斜地を造成することで市街地が広がってきました。
こうした造成は高度経済成長期以降、住宅地開発や施設用地の整備とともに各地で進められてきました。
その過程で整備された擁壁は、現在の都市部にも数多く残っています。
多くの擁壁はコンクリート構造で造られており、経年劣化によりひび割れが発生する可能性があります。
また、地盤のわずかな動きや降雨による水の影響など、周囲の環境条件によって変化することもあるのです。
長い時間の中で少しずつ進行するため、日常の施設管理では気づきにくい傾向があります。
また、降雨や地震などの影響によって状態が変化することもあるため、注意が必要です。
擁壁の安全性を左右する土圧(どあつ)と水の力
擁壁の安全性を考えるうえで重要になるのが、背後の土から作用する「土圧」です。
擁壁は常に土の重さを受け止めており、土が雨水や地下水を含むと、その荷重はさらに大きくなります。
この水による圧力を逃がすために設けられているのが水抜き穴です。
擁壁に一定の間隔で設けられている小さな穴は、背後に溜まった水を排出するという重要な役目を果たします。
排水が十分に機能していない場合、擁壁の背後に水が溜まり、構造に大きな負担がかかる可能性があります。
その結果として、ひび割れや変形などの変化が現れるリスクが高まるのです。
このように擁壁は、単に土地の境界を示すものではなく、建物全体の安全性にも関わる構造物なのです。
擁壁の安全性を規制する法律とは?

擁壁は敷地の安全性に関わる重要な構造物であり、法律によって設計や施工の基準が定められています。
現在は「宅地造成及び特定盛土等規制法」などにより、造成地や盛土の安全性について一定の基準が設けられています。
一方で都市部には、こうした基準が整備される以前に施工された擁壁も多く存在するのです。
そのため、当時は適法に施工されたものであっても、現在の基準から見ると安全性の検討が必要となる場合があります。
造成時期や構造の状況によっては、現行基準との違いを踏まえて状態を確認しておくことが重要です。
実務の現場で見られる擁壁の課題とは?補助金利用も

設計や調査の業務では、既存の擁壁に関する相談を受けることも多いです。
中でも、造成時期の古い敷地に設けられた擁壁では、構造や排水に課題が見られるケースがあります。
例えば、現行基準と比べて鉄筋量や構造の検討が十分でない擁壁や、
無筋コンクリートで造られた擁壁のうち設計条件や排水計画が不十分なもの、
排水設備が十分に設けられていない擁壁などが挙げられるでしょう。
こうした状態では、ひび割れや水のしみ出しなどの変状が見られる場合もあります。
さらに状態が進行すると、変形や倒壊につながる可能性もあるため注意が必要です。
必ずしも大規模な工事が必要になるとは限らず、状態を確認したうえで経過観察や部分的な対応で管理できるケースもあります。
敷地の安全性を支える擁壁は、土地の所有者や施設管理者が維持管理を担うケースが多いです。
なお、時期によっては擁壁の改修や安全対策に対して自治体などから助成制度が設けられている場合もあります。
維持管理の計画や予算検討のためにも、こうした補助金制度の活用も含め、一度専門的な視点で状態を確認しておくことをおすすめします。
擁壁の点検や改善についてお悩みの方はご相談ください

擁壁は長い時間の中で状態が変化する構造物です。
もし、ひび割れや傾き、水のしみ出しなどの変化が見られる場合には、状態を確認しておくことが安全につながります。
直ちに危険につながるとは限りませんが、安全性に関わる構造物であるため、専門的な視点からの判断が必要になることがあります。
株式会社スギウラ・アーキテクツでは、擁壁の状態確認や改善に関するご相談にも対応しています。
敷地条件や構造の状況を確認しながら、施設全体の安全性の観点から、
予算計画も含めた適切な対応について専門的な立場から検討いたします。
敷地や擁壁について気になる点がございましたら、お気軽にご相談ください。
なお、近年注目を集める災害に強い建築についての記事もありますので、ぜひご参考にしていただけますと幸いです。